今回から4回に渡って、シェアハウスにおけるソーシャル・キャピタル調査のデータについて、私なりの解説をしてゆきます。
最初のテーマは、“入居者のソーシャル・キャピタル”です。
レポートでお伝えしたように、シェアハウス入居者のソーシャル・キャピタルは総じて平均的に、単身世帯(1人暮らし)の人よりも高いということが分かりました。それを端的に表しているのが、上のグラフだと思います。
「一般的に人は信頼できるか」という質問に対して、シェアハウス入居者は同じ年齢や性別構成の単身世帯の人よりも、「ほとんどの人は信頼できる」が約7%多く、「注意するに越したことはない」が約25%少ないのです。
「一般的に人は信頼できるか」という、とても抽象的で捉え所のない質問の結果に、このように大きな違いが現れたことに大きな驚きがありました。「一般的な信頼感」は、他の友人との付き合いやスポーツ・趣味活動への参加とは違い、その人の価値観が直接現れています。地域の人や友人といった人だけでなく、会った事もない知らない人への信頼感も含むものなのです。
私はソーシャル・キャピタルの中でもこの一般的な信頼感は非常に重要な要素だと考えています。身近な話では、私達が都会の中ですれ違う人の内、99%以上は知らない人でしょう。
そういった人に対して信頼感を持つ事ができれば、お互いにとって快適な生活を送ることができる気がします。大雑把な話ですが、戦争や紛争の解決にも、こういった目に見えない部分が大切だと考えています。
少し脇にそれましたが、シェアハウスの入居者の方が、最初は知らない人達と一緒に住むという選択をする事に、強く共感しました。
続いて、友人や知人との付き合いです。
これもレポートでお伝えしたように、シェアハウス入居者の友人・知人との付き合いは、一般の単身者と比較して多いことが分かりました。
友人・知人との付き合いは、私がソーシャル・キャピタルの測定をする上で参考にした日本総合研究所の資料で、異なる組織間における異質な人や組織を結びつけるネットワークとされる“橋渡し型ソーシャル・キャピタル(bonding social capital)”を強く表現するとされています。
ソーシャル・キャピタル研究の権威であるパットナムは、人と人との同質的な結びつきで、内部で信頼や協力、結束を生む“結合型ソーシャル・キャピタル(bonding social capital)”の持つ排他性に危険性を認めています。もちろん、内部結束力の強いコミュニティで集団的にも個人的にも恩恵を授かることは大切ですが、コミュニティの対立や個人の自由を損なうといった弊害のリスクもあわせ持ちます。
人種や階層、価値観を超えることのできる“橋渡し型のソーシャル・キャピタル”は、そうした中で重要な役割を果たす事ができるでしょう。
知らない人への信頼感も含む「一般的な信頼感」は、おそらく橋渡し型ソーシャル・キャピタルを説明する上で重要な要素です。これは現代の、そしてこれからの社会にとって、とても重要な要素だと思います。
私は、橋渡し型ソーシャル・キャピタルの高いシェアハウスの入居者が、住居内外での個人個人の日々の営みを通じて、そのソーシャル・キャピタルに全ての人がアクセスできる豊かな社会づくりに貢献できるのではないか、と推測しています。